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日々の「タメ」になる情報を一切発信しないゴミブログです(*ノω・*)テヘ

裏切らないスイフト・スポーツ

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200万円オーバーと思ってたら、200万円切ったし・・・
1トン超すと思ってたら、1トン切ったし・・・

スズキはどんなマジックをしたんだよ???




 ハンドルを握る前からさぞ楽しいだろうと思ってはいたが、走ってみるとそれを上回って楽しかった。期待をまったく裏切らない、恐らく多くのファンが待ち望んでいたスイフト・スポーツそのものだ。

 昔からホットハッチと言われるクルマには楽しいものが多かった。スイフト・スポーツはそうしたクルマの最も正統な継承者だと思う。かつて日本を代表するホットハッチとして君臨したホンダ・シビックType Rは450万円と水平線の彼方へ消えてしまった。

 Bセグの競合を見れば、価格の高い順に、トヨタ・ヴィッツGR(230万円)、ホンダ・フィットRS(218万円)、日産・マーチNISMO(160万円)、マツダ・デミオ15MB(153万円)。スイフト・スポーツは素のモデルで183.6万円。セーフティパッケージ全部乗せて198万円である。競合中最安価のデミオモータースポーツのベースグレードで、装備をはぎ取った特殊グレードなので同列に評価できない(それが良いという特殊な性癖の人は除いて)。ざっくり見て200万円超えのヴィッツとフィット、200万円以下のスイフトとマーチという図である。

 スイフトの主査の小堀昌雄氏に「頑張ったのは分かりますけど、あと20万円安かったらというのがユーザーの偽らざる気持ちだと思います」と無茶なことを言ったら、困り果てていた。いや本当に頑張っているのは分かるし、世界的に見てもむしろ安い。おかしいのは日本のデフレ賃金であって、スズキのせいではない。

 買えるか買えないかは個人の懐事情だが、価格に相当する価値があるかどうかと言えば、肝心のクルマはホットハッチという言葉にときめく人なら、たまらない1台に仕上がっている。買えるのならばすぐにでも判子を持って、ディーラーに行くべきだ。一番言いたいことはそれで、ホントはそれだけで原稿を終えても良いと思う。でも長文が大好きという奇特な人に向けて以下の文章を書いていこう。

●1トンを切るということ

 ここしばらくのスズキは、目覚ましい軽量化技術で新型車をリリースし続けている。スズキが「HEARTECT(ハーテクト)」と名付けた新世代シャシーだ。2016年12月にデビューした新型スイフトは、その軽量化で世間をあっと言わせた。先代スイフトXG(2WD/5MT)と新型スイフトXG(2WD/ 5MT)を比較すると何と120キロも軽い840キロ。これが大きく重いクルマならともかく、Bセグメントのコンパクトなのだからどうかしている。今までだってグラム単位で軽量化にまい進してきた。それをいきなり120キロである。

 「スズキがスイフトを120キロ軽量化しましたよ」と伝えたら、トヨタの偉い人もマツダの偉い人も絶句していた。「ちょっと研究します」。そりゃそうだと思う。スイフト以外のBセグメントのクルマで最軽量は日産マーチの940キロ。スイフトの場合、重量で不利なストロング・ハイブリッドでマーチと同じ940キロを叩き出している。とにかく軽量化技術に関して、現在スズキは世界的にも飛び抜けており、競合各社はそれをマークしなければウソだと思う。

 そんなわけで、「スイフトは軽い」と思っていたので、970キロという車両重量を聞いたとき、「あれっ? 意外に重いな」と思った。前出の最軽量モデルであるXGの5MTが840キロ、ストロングハイブリッドのHYBRID SGで940キロ。だから「スイフト・スポーツは930キロくらいで仕上げてくるかな?」と思っていた。前出の小堀氏は「重量増加の要因はほとんどがエンジンとサスペンションです」と言う。大径化されたタイヤ/ホイールと強化されたアーム類もさることながら、やはり140馬力の高出力のためにインタークーラーターボ化され、各部が強化されたエンジンが増加要因となっているのだと言う。ならば仕方ない。

 車両重量はもちろん軽いに越したことはないが、過去のさまざまなクルマを思い出して見ても、経験的には1トンはやはり大きな分水嶺で、1トンを切ると途端にクルマの動きが良くなり、サーキットの限界走行で姿勢を崩しても対処がし易い。そのラインを守り切ったことには大きな意義がある。煮え切らないことを散々書いたが、それはスイフト・スポーツに対する期待の表れで、1トンを切りながらシャシーはがっちりしているし、出来上がったクルマはとても良い。

●素直で明るい性格

 エンジンはDOHC4バルブ、1.4リッター直噴4気筒のインタークーラー付きターボ。最近のターボらしく圧縮比が9.9と高めな上、低速から過給するので、2000回転以下という低回転から先代スイフト・スポーツの1.6リッターエンジンのピークトルクを上回るトルクが出ており、どこからでもグイグイと加速する。しかし排気量が少ないということは、物理法則的に無過給ではトルクが低く、かつ排気量が少ない分、過給圧が上がるのが遅いので、当然極低速ではターボラグは必ず発生する。しかし実際の走行においては、高いギヤで低回転まで持ち込んでスロットルをオンにするような意地悪なテストをしない限り分からない。このクルマの本分であるスポーツ走行時には、当たり前にシフトダウンを行うので、タイトターンであっても過給待ちのシークエンスには至らない。

 ターボのレスポンス対策は、技術的にはひとひねりしてあり、タービンを回す排気が増え過ぎた時にバイパスさせるウェイストゲートバルブを、デフォルトで閉めた状態にし、初期レスポンスを稼いでいるのだそうだ。過給を立ち上げる際に慌ててバルブを閉める方式に比べればレスポンスが早い理屈だ。

 最大出力は140馬力。馬力についてはぜいたくを言えばキリがないが、無制限にパワーアップすれば価格もうなぎ登りになる。スイフト・スポーツはホットハッチとして十分な性能で、楽しいと言える範囲で十分以上に速い。キビキビ、ビンビン走るのに凶悪な感じがしないのが良い。おかげでクルマとして性格が素直で明るい。

●二兎を追わない割り切った選択

 ハンドリングはさすがスイフト・シリーズのフラッグシップ。微舵角でも正確で、大舵角でもタレない。前後タイヤのグリップバランスも良く、近年流行りのテコでも曲がろうとしないリヤタイヤのジオメトリーと比べると、切り始めから不必要に粘らず、旋回に入ってからは信頼感がある。サスペンションは硬めなので旋回中にギャップを拾った時には跳ね上げられてストンと滑るが、滑り始めも再接地時も穏やかで特別な操作を求めない。硬めと言っても胃が揺すられるような不快な乗り心地ではなく、スポーツモデルとして見れば穏やかで良い落としどころだ。

 ということで、スイフト・スポーツは「楽しい二重丸のクルマ」だが、だからと言って完璧ではない。むしろいろいろと雑なところはある。前もって書いておくが、だからと言ってスイフト・スポーツの魅力が損なわれるわけではない。個人的にはホットハッチはそういうアバタもエクボの心意気で乗るクルマだと思う。元々が安価な大衆車に無理矢理強力なエンジンを積むのだから、何も失うものがないはずはない。いろいろ分かっていて、それを飲み込んで乗るのが粋と言うものだ。ただし、それに気付いて納得して許容するのと、分からずに盲進的に賛美するのは違う。

 これは新型スイフト全モデルの問題だが、ペダルオフセットがやはり気になる。これはシャシーをやり直さないとだめなので次世代までどうにもならない。許容できるかどうかは必ず試乗して確かめてほしい。筆者がダメだと言っても、本人が納得して乗れるのならそれで良いのだ。筆者の場合、ペダルオフセットは結構なマイナスポイントだと思うが、クルマ全体の魅力に抗いがたいものがあるので許すと結論した。

 もう1点はステアリングだ。一般的にクルマはハンドルを切ると中立位置に戻ろうとするセルフアライニングトルクが発生する。最近の電動パワステでは、それをパワステのモーターが「盛る」傾向が強い。スイフト・スポーツもご多分に漏れずそうなっていた。それなりの舵角が入るコーナーリングでは高い反力がそれっぽい演出になっているが、直進時の微舵角操作でもモーターが頑張って盛ってしまう。サスペンションジオメトリーの素養としてはもっと小さな力で進路の修正ができるのに、いちいちモーターの反力と戦わなきゃならないのは理不尽だ。普段使いで疲れる。

 直進安定性は高くない。割とチョロチョロするが、舵が効かずにフラフラするのではなく、舵が敏感で進路が変わりやすい印象だ。多少集中力を要するが、ドライバーがちゃんと的確な微舵修正を加えてやれば何とかなる。ただしモーターの反力とずっと戦わねばならない。要するに、気楽にドーンと真っ直ぐ走れる直進安定性よりコーナーを回り込む機動性を重視した結果である。ホットハッチの本分は直線番長ではないので、このリソース配分は良しとする。

 もう1つはステアリングシャフトを伝ってくる微振動だ。これは難しいところで、ステアリング系、特にステアリングラックのマウントを柔らかく大容量のものに変えればすぐに直る。ただそうするとトレードオフとしてステアリングのダイレクト感が失われる。だから小堀氏に尋ねた。「これが限界ですか?」。小堀氏は「これ以上やるとダイレクト感が……」と答えてくれた。ならばこれで良い。振動が少ないに越したことはないが、そのためにダイレクト感がなくなったりしたらスイフト・スポーツとしては「角を矯めて牛を殺す」話になってしまう。クルマ全体として二兎を追わず、大事なものに集中する姿勢がハッキリしている。

 内装はレーシーなイメージと言えば聞こえが良いが、あっちこっちに赤トリムが入っている。元々の造形が大人っぽいデザインではない上に、この赤が乗っかる。頑張って赤の彩度を落として落ち着かせようとしているが、昔取った杵柄でおっさんが乗ろうと思うと気恥ずかしい。可能なら追加費用を取ってでも黒一色の地味地味なトリムオプションがあるとおっさんドライバーたちが大量に釣れるような気がする。

 細かいあら探しをしつつも、もういい加減、筆者の本心は伝わったと思う。スイフト・スポーツはホントに楽しい。スイフトにはコンパクトカーの未来を指し示す上質で穏やかなスイフト・ハイブリッド(ストロングハイブリッド)があり、古典的な楽しさを伝承するスイフトスポーツがある。どちらも筋が通っており、ブレがない。そしてどちらに乗っても小堀主査の笑顔がその向こう側に見える。スイフト全モデルに試乗して小堀主査がスポーツドライブ好きであることはよく分かった。良いクルマは然るべきカーガイがいてこそ出来上がるのだと改めて思った。

(池田直渡)

https://www.msn.com/ja-jp/autos/news/%E8%A3%8F%E5%88%87%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/ar-AAtwhCn#page=2