人の不幸は蜜の味 by チャイナ格言
10月1日から8日まで、中国では国慶節の長期休暇期間となったが、その数日前の9月末、イギリスの首都ロンドンで、中国人の団体旅行客ご一行が大ヒンシュクを買っていた。
現場は高級住宅街が並ぶ、ケンジントン・アンド・チェルシー区。そこに、一台の観光バスがやってきた。バスが道路脇に止まると、中国人観光客が降りてきて、ある建物の写真を次々に撮りだしたのだ。
その建物というのが、今年6月14日に大火災を起こし、死者80人以上を出したと推定されている高層住宅であるグレンフェル・タワーの焼け跡である。この火災では、第二次世界大戦以降、最悪の死者数を記録して おり、イギリス中が大きな悲しみに襲われていた。
日本同様、おそらく中国でも大きく報じられたのであろう。あれからまだ3カ月半ほどしかたっていない現場近くに、中国人観光客たちはまるで観光名所を見に来るかのようにやってきたのである。
この光景を見た近所に住む男性は、グレンフェル・タワー火災の状況を知らせ合うグループのFacebookのページに、憤りを込めてこうつづっている。
「バスいっぱいの観光客たちがタワーの写真を撮っているのを見て、とても信じられなかった。バスの運転手に聞いたら『彼らは中国から来た、健康と安全に関する調査官たちだ』と言っていた。だが、火災跡の写真は、これまでに数多くネットにアップされている。これ以上たくさん撮ってどうするんだ? 火災跡が観光名所などになってほしくない」
現地のタブロイド紙「ザ・サン」によると、このバスを運転していた運転手は謹慎処分となっており、観光客を率いていたツアーガイドは中国に送り返されたという。
バスの運営会社は「火災現場への立ち寄りは、公式の旅程には入っていなかった」というコメントを発表している。
実は、火災現場の写真を撮ったり自撮りをするのは中国人観光客だけではなく、これまでにも数多くいたようで、近所の住民たちが、記念写真を撮ったりしないよう求める張り紙を出している。
それにしても、海外旅行に来て、多くの死者が出た火災現場に物見遊山で押し寄せるというのは、かなりの非常識であるといえるだろう。
(文=佐久間賢三)